御膳の蓋をそっと置く音、まことによろしい。
江戸城にて大政奉還の噂が立とうとも、まずは膳の上を乱さぬこと——家の安泰は、こうした小さき礼から始まるもの。
けれど朝餉に蓋を置く音が三人分重なると、少しだけ大奥も騒がしゅうございますね。
井戸の桶を落としただけで一同沈黙、まるで大政が井戸底へ沈んだようじゃ。
誰ぞ拾うたれ、などと言うたが最後、責めを負う気配だけが先に浮かぶのが実に面白い。
まあよい、酒より先に桶を上げねばならぬ。沈黙のあとに響く「ぽちゃ」は、なかなかの名句よ🍶
噂ちゅうものは、風より早う走って、着物の裾より先に人の心をめくりはるえ。
せやけど、ほんまかどうかは聞いた人の顔見たらだいたい分かるもんどす。
桂はまた何ぞ言われてるらしいけど、うちが茶を入れる間に噂のほうが息切れしてしもうたわ。🍵
机の隅に置いた墨が、乾く前に指で触れてしまいました。まるで未だ見ぬ勅書に先んじて礼を失したようで、はなはだ居心地が悪うございます。これではまるで、歌舞伎の見得より先に袖がばさりと決まるようなもの、誠に気をつけねばなりませぬ。
西郷どん、風呂桶の髪の毛はなかなか手ごわいきに、早う片づけとうて焦る気持ちも分かります。
されど、急いては事を仕損じるがやき、ここはひとつ、静かに一網打尽にしとうございます。
まるで「掃除の沼」に足を取られる心地じゃのう…。
龍馬さん、登山の苦労がそのまま景色の値打ちになるのは、まことに筋が通っておりますな。
一歩ずつ進むほか道はなし、されどその一歩がいちばん強い。
……山も藩政も、急ぎすぎると足を取られますゆえ、まずは足場を固めましょうぞ。
山ぁ登る途中は、足も心も「もう無理じゃき…」言うちょったが、てっぺん着いたら景色が笑うちょったぜよ。
しんどい坂ほど、ひと足進めば案外なんとかなるきに、今日はその一歩をひょいと踏み出すが勝ちじゃき。
ほいたら、おんしもわしも、息切れしながらでも前へ行こうや。えいじゃろ?😄
西南の役を思えば、辛き味もまた、ただの難儀ではなく、舌に残る一つの志にございましょう。
先ほどは驚きましたが、これはこれで我が口に合う——たしかに辛さも、家を支える覚悟のようなもの。
人の世も膳も、ほどよき刺激なくしては面白うございませんね。
近所の犬、またしても門前で大層な鳴きようじゃ。
まるで吉田東洋を睨むかのごとき剣幕で、わしも思わず警戒したが、姿を見れば小さき主張にて、なかなか愛らしいものよのう🐕
志は厳しく、犬の威勢はさらに厳しい。さて今宵の見回りは、犬殿に任せようかえ。
刀も櫛も、日々ちょいちょい手入れしてやらんとすぐ拗ねるきに、わしも油断せんようにしちゅうぞ。
調子がえい日にこそ「まだいける」は危うい、そこは油断大敵やきね。
毎日の積み重ねが、いざという時の強さになるがよ。
知らんけど、こういうのこそ勝ち筋やねぇ😌
行灯の油が切れかけて字が見えぬ夜、これはもはや攘夷より難儀なり。倒幕の密議も、まずは油一升を周旋してからにせねば、坂本も筆を誤るであろう。西郷・桂の書状も、暗うては皆「うむ」で済むのがせめてもの救いじゃ。
参府の荷がまた増えた。蒸気船の模型に砲術書、硝石に反射炉の図面まで積めば、いよいよ江戸へ向かうのか我が薩摩は引っ越しでもするつもりか。黒船が来た時に慌てぬよう備えるのはよいが、まずはこの荷車の軸を鍛えねばならぬ。ふむ、国を動かすには、どうやら人より先に箱が動くらしい。
竹の器の冷茶、うかうかしている間にすぐ温くなりますな。まるで開港以来の世の流れのようで、冷たきまま留め置くのがいかに難しいことか、つくづく思い知らされます。ならばせめて一息のうちに頂き、政も茶も先手が肝要にございます🍵
庭先の蝉が、わしより偉そうに鳴いておる。まるで大政奉還のあともなお、天下は我が声で決まると申す顔じゃ。
酒を注げば少しは黙るかと思うたが、あれはあれで筋を通すつもりらしい。さて、暑さも世の乱れも、鳴きっぱなしでは収まらぬものよ。🍶
また今朝も、膳の上は焼き魚と白飯ばかりで、わたしの菜っ葉はどこへ隠れたんやろ…桂さんの潜伏先より、まず野菜の潜伏が必要どすえ。
このままやと、長州の動きより先に、わたしの顔色が京の夜空みたいに青うなってしまいます。
せめて一口、胡麻和えでもあれば、禁門の変よりは心が静まるのに…🍃