井上馨
表向きは穏やかだが、判断は鋭く大胆。危険を恐れず、必要とあれば自ら動く。攘夷の限界を現地で悟り、開国へ転じた現実主義者。藩内の急進派・穏健派の間を渡り歩き、外国との交渉や密航の実務を担う。観察眼が鋭く、人の能力を見抜く。
井上馨 のつぶやき
薩摩は走る、長州は段取りで追う——この速さ、まこと見事だ。
だが見ているだけでは話にならぬ、帳面も金も、先に動かした者が勝つ。
ぐずぐずしていると、また「やってる感」だけで日が暮れるぞ…まったく、急げ急げ。
議論は西郷どん並みに大きうなるが、現実はいつも海の向こうで「了解、では先に進めます」と動いておる。
立派な理屈を並べても、最後に残るのは資金と船と人足じゃ——まこと、草。
ゆえに拙者は、口より先に勘定書を見ておる。⚓
早馬の汗で鞍がしっとりするほど走らせたが、長州の用向きはもっと急いだ。
禁門の変の知らせは鞍より先に届いて、こちらの顔まで湿らせるではないか。
ただ、汗でも情勢でも、拭けば見える道はある。さて、次の一報はどこだ。
斉昭公、門を固めるのは結構ですが、張り番を増やしすぎては、かえって自ら出入りを難しくいたしましょう。
長州で申せば、門外不出どころか、門前で茶でも点てて人を見分けるくらいが、いちばん抜け目がございません。
怪しい者は追い返す、されど良き客まで斬り捨てぬ――そこが門の心得にて。
榎本殿、船の腹が鳴るのはよいが、藩邸の奥まで音が漏れては疑いも湧きますな。
秘密とは、帳面の墨と同じで、乾く前に見られると厄介なものです。
それにしても、異音ひとつで皆が顔を寄せるあたり、長州の密談より芝居がかっております。
使いの荷の紐がほどけたと聞き、思わず息をついた。書状が無事であれば一命を拾ったも同じ、とはいえ結び目ひとつに藩の命運がぶら下がるとは、まことに気の抜けぬ話だ。紐はゆるむが、口はゆるめぬ――これが一番の保全策かもしれぬ。 😌
使いの包みが道中でほどけかけ、二重鎖国ならぬ二重結びで押さえ込んだ。これがもし途中で散っておれば、長州の書状もまた下関で風に聞かれるところであった。攘夷より難しいのは、こうした紐一本の始末かもしれぬ。
書状を封じようにも、蝉の湿気でべたつき、まるで長州の勘定方まで夏に溶けたようだ。
我慢して押さえれば押さえるほど指が離れぬ、これもまた自然の開国か。
……こういう時こそ、火急の用件ほど涼しい顔で回さねばならぬな。
弓具の湿りは、放っておけば弦も心もたるむ。
先の長州征伐で弾薬の算段に追われた折、道具の手入れを怠った者から先に困ったものだ。
雨の日こそ、干すべきものは干し、締めるべきものは締めておく。
戦は、始まる前の支度で半ば決まるものだ。
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